星の見えない夜に / the night can't watch the hope


「あーーっ、やめやめ」

 ぼすんっ。

 気が乗らないときに作業してもロクなことはない。
 そんな風に自分に言い訳して作業を放り出すと、ベットの上に身体を投げ出す。
 しかし、筋が通ってるようで通ってない言い訳だ。
 特に書きたくもないレポートを単位の為に、どうしても仕上げないといけない場合は。
 結局は気が乗らないにしても、書かないわけにはいかないのだから。

「はぁ……」

 溜息。
 こんなことなら自然環境論なんて授業は取るんじゃなかった。
 去年までは、試験もレポートもなしで単位を取れると有名な授業だったのに。
 まさか、今年になって教授が替わってるなんて思いも寄らなかった。
 しかも、最近聞いた噂によると根っからのエコロジストを自認してるらしい。
 レポートにしても、今更環境問題について、だ。
 しかも、それが毎月毎月、ほんの少しだけ当りを変えて出されるんだから始末に負えない。
 下調べをしなかったのが悪いといわれればそれまでだ。
 それにしてもここまで違わなくても良さそうなものなのに。
 一年早く取っておけばと後悔せずにはいられない。
 だが、全て後の祭りだ。

「やるしかないか……」

 いろいろなものを諦めて再びパソコンに手を伸ばす。
 とにかく書き上げればいいんだ。
 その点だけは教授に感謝しておこう。
 検索サイトに向かいキーワードを打ち込む。
 リストアップされたHPを適当に覗いていく。
 書きたくもないレポートの体裁を整えるにはこれが一番だ。
 大学のレポートなんて……っと。

「この辺、使えるな」

 目にとまった文章を片っ端からテキストファイルにして保存していく。
 それが十個を越えたところで一度手を止める。
 これだけあれば充分だろう。
 しかし、当然のことながらどのサイトに乗ってることも似たり寄ったりだ。
 まあ、それも当然か。
 前世紀から騒がれ続けた自然破壊に資源枯渇なんて問題には、もうみんな飽き飽きしてるんだから。
 時折、ニュースなんかで取り上げられたりするが、みんな建前だってのはわかってる。
 ただ、自分が特に困ってないからどうでも良い。
 まあ、そんなものだ。
 だって、地球環境が悪化してます。
 そう言われても出来ることなんてないんだから。
 いや、いまだに根強い活動は続いてるけど、国家レベルでの抑制策は結局、ほとんど進んでないんだから……。

「んー、もうちょっとかな」

 そんなことを考えている間にも、レポートの行数はどんどんと埋まっていく。
 この辺は自分でも思うけど慣れたものだ。
 レポートを出すたびに似たようなことをしてれば当然という気もするけど。
 
「だいたいこんなものかな」

 手を休めテレビをつける。
 こんな時間にロクな番組はないけど、気休めにはなる。

「……なんだかな」
 
 タイミングがいいというか、なんというか。
 テレビの画面いっぱいに地平線が広がっている。
 手を止めて少し眺める。
 良くある環境映像、って奴なんだろうか。
 ある地域を一年に渡り、取材する。
 そう言った内容が、淡々と繰り広げられていく。

「……作業作業」

 少しだけ見入ってしまっていた。
 これが終わっても、他のレポートも残ってるんだ。
 文章に露骨な間違いがないかをざっと眺めていく。
 ディスプレイの中の文章には美辞麗句が踊っている。
 理想論とか一般論っていわれるたぐいの文章。
 内容は無難。
 量も適当。
 可を頂くのに特に問題のない文章。

「…………」

 何となくテレビに視線を戻す。
 番組はすでに終わり、夜景をバックにオーケストラが流れている。
 もう少し真面目に見ても良かったかも知れない。
 まあ良い。このレポートはこれで終わりだ。
 問題なし。
 ファイルを保存。
 少しだけ夜風に当たりたくなって、ベランダにでる。
 空は晴れているが、星はほとんど見えない。
 当たり前の風景なのに、少しやるせなかった。
 環境問題が改善されれば……。

「考えてどうにかなる訳じゃないのにな」

 それでも、考えないよりはましなのかもしれない。
 星が見えない空に慣れきってしまうよりは……。

「……寒いな」

 身体が冷えた。
 部屋に入ると、再びパソコンへ手を伸ばす。
 次のレポートだ。

 一度くらいは満天の星空や果てない地平線を自分の目で眺めてみたい。
 そう思いながら俺は次のレポートに取りかかった。



 待ち受ける波乱に気づかないまま。